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東京高等裁判所 昭和24年(新を)904号 判決

控訴人 被告人 金正斗

弁護人 大貫大八

検察官 渡辺要関与

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

弁護人大貫大八の控訴趣意は同人作成名義の控訴趣意書と題する末尾添附の書面記載の通りである。これに対し当裁判所は左の通り判断する。

第三点原審公判調書には弁護人は裁判官の許可を得て被告人の供述を求めた旨の記載があること並びに弁護人には裁判長の許可を得なくても単にこれに告げて被告人に供述を求め証人に対し尋問する権利あることは所論の通りである。しかし弁護人は裁判長の許可を要しないのに旧法時代のようにその許可を求めることもあるのである。かような場合に裁判長が許可を与えたからというて弁護権を制限したものとはいえない。故に只単に許可を得てとあるのみであつて記録を調査しても本件では弁護人の権利を制限したと認められる点は全くないから弁護人の権利を不当に制限したとの所論は畢竟理由ないものである。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意書

第三点原審公判調書を閲するに弁護人は裁判官の許可を得て被告人の供述を求めて居る然し憲法第三十七条第二項で刑事被告人自ら証人の審問権を保証されて居るのであつて此の憲法の条項に基き刑事訴訟法第三百四条第二項は勿論同法第三百十一条第三項の規定が定められた事は謂う迄もない従つて弁護人は被告人が任意供述する場合は之に対し供述を求むる権利を有するのであつて此の権利の行使は裁判長に告げればよろしいのであつて何人の許可も必要としないことは右法文上明白である。

然るに原審は斯くの如く憲法の精神に基き刑事訴訟法上保証される弁護人の権利を不当に制限し許可の権限なきに拘らず許可をして弁護人の権利を行使せしめて居る斯様に不当に弁護権を制限した原審公判手続自体違法であつて斯る公判に於ける被告人の供述を採つて証拠となすことも勿論違法である依つて原判決は破毀せらるべきものと思料する。

(その他の控訴趣意は省略する)

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